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wordpressの日記( https://yajiriinu.wordpress.com/ )の移植版

朝めざめるアラームを俺にくれ

ヨーグルトを購入するということはそれをあと1週間以内に全て食べる計画を描く行為に等しい。逆に言うと、無計画にヨーグルトを購入するべきではない。いきものを買うときは買ったあとの計画を立てるのが普通だが、モノに対しても計画性を持っていられるかどうかが生活力の差のつき所である。

しかし計画など立てなくてもいいすばらしい買い物がある。CDである。ほかの趣味と比べて場所もさほどとらないし、本やゲームと違って開封してもしなくてもいい(youtubeとかで聞けるから…)、楽器やスポーツの道具と異なり使わなくても罪悪感がないところが優れている。なによりCDというのはハード面の構造の単純さゆえに誰でも作れるのが非常に美点であり、個人が趣味で手作りしたものを手に取ってみるとそいつの部屋の匂いが歌詞カードとかに普通に染み付いているため、作り手の生活をかなりダイレクトに感じることができる。つまり、CDあつめを通してヘブンズドアができる上に、それをすることで他者に後ろめたさを感じる必要もないというのだから、こんなことが可能になる買い物は他に類を見ない。そうであるのでドンキホーテの次に好きなチェーン店はディスクユニオンである。

 

以前ちょっとヒップホップの話をした際に触れたが”定番”よりはそこから外れたものたちを私は特に求めている。通常状態からの逸脱を探求すると学問ならびにギャグにつながるという話は笑いのすごさを論理的に説明したときにもうしているが、ギャグと音楽とアカデミーの組み合わせを見事体現したグループに「キングニート」がある。

詞や曲やアレンジが当たり前のようにどの曲もいいのだが、こちら「神楽もぐとご飯もぐもぐ」では寸分の隙もないナンセンスが体現されている。Shing02みたいな天才すぎる人の作品は緻密すぎてかえって考えすぎてしまうし、スチャダラまでコミカル路線になると頭の良さにサヨナラすることになる(これはいいこと)が、この曲は散文詩でもありうるしコントのようでもありながら音楽性を保っているからすごい。

特に奢るのがティラミスなのが、良い。ティラミスというチョイスは”神楽もぐ”という人物に対して何ら具体的イメージを持たせないので、”特に共通の話題もなく行くべきデートスポットもないからとりあえず入った喫茶店でおそらく冷凍であろうティラミスをおいしそうに食べるオレの理想のイマジナリー女性”という質感が一気に集約されるワンフレーズである。「ティラミス」の無機質さと「もぐチャン」と気安く呼ぶ距離感とのギャップがもたらす効果には驚嘆せざるを得ない。かと思えば、理智とテクを多分に含んだ押韻の連続の中で「鏡の中は空っぽで僕は駄々っ子」という比喩的な表現も出てきたりネトフリ見たりするのに、その末に「やりたい」がゴールになっているのはもはや粋というべきか。綺麗な言葉を丁寧に積み上げて最後に一気に崩すという形式は性的関係に至るまでの道程として王道であるが、それを極度に戯画化してギャグに逃げ切ることもせず現実味を帯びさせたまま歌詞の形にしてそれでいてイヤミがないのは非常に新鮮である。

また、ワクワク水族館 (feat. まどんなZ)でもおもったがサビ部分のフレーズはフックとしては弱めにつくられている。先ほど引用した「もぐチャンに奢っちゃうティラミス」などと比べれば、「夢の中だけじゃ味がしない」とか「お魚のためだ仕方ない」とかは高飛車とイッツアスモールワールドぐらい威力が異なるものである。これが意図的に作られた落差だとすればさらに考察の余地は深まるものの、単純に発見が嬉しいだけで良いからここでは敢えて触れない。

ここまで書いた内容よりもより本質的な話があってそれは詩を書ける脳とも通じるところにはなるが、音楽というのは時空間を経験することであり、同じ音楽を知っているということは同じ時空間を仲間と共有しているということである。その意味でも既存のトラックを加工して別の音楽にするヒップホップというジャンルは特異的だ(vaporwaveとかなんちゃらfunkとかも同じ特徴を持っているけど)。後に完成した楽曲とサンプリング元の楽曲がそれぞれ異なる時空間を持ちつつも共通している部分もあるし、元ネタを知っている人同士で時空間の共有が発生することもありうるから、キングニートの曲も数多の人間のいくつもの経験を含蓄しているはずである。その上でギャグと芸術性のバランスを絶妙に保っているという状況そのものがまたメタ的なギャグのようにも思えてくるものだ。これはカニコーセンやかえる目といった至高のフォークにも通じており、もしキングニートの音楽性がこの路線のまま醸成されてくれば必ず何らかの大花を咲かせるであろうことが予想される。

 

まだ出回っている曲数が少ないため今後のリリースに注目しているが、この人たちが書いた詩をもっと読みたいし詞と曲の妙を味わっていたいのでキングニートさんCD出してくださいオラ!朝青龍カンクロウと松岡修造の歌みたいなアカデミック笑いを消費することでしか生み出せないATP(アデノシン三リン酸)がある。メンタルマンボウでもバカワクワクすっぞ!!!!