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wordpressの日記( https://yajiriinu.wordpress.com/ )の移植版

60GBの先生

30TBの外付けSSDが5000円前後の格安な価格帯で売られている場合、そのほとんどが実際は60GBくらいのマイクロSDをアルミの箱の中に入れてるだけのシロモノであるらしい。PCとSDカードの間にアルミの箱をかますことによって、PCに接続したときにちゃんと30TBと表示上は出るように偽装しているようだ。このSSDに本当に30TBのデータを入れようとすると、60GBを超えたぶんはどんどん上書きされ、古いデータはユーザーになんの断りも入れず自動で消去されてしまう。

普通に悪質な商売だが、これを何かに応用することはできないか。生きていくと、できるかわからないことをできますみたいな顔してこなしていくことが求められてくるものだ。毎朝早起きするとか遅刻しないようにするとかだって、いざその時が来るまではできるかわからないものだ。しかしできることが前提として考えられているので、寝坊や遅刻はかなり批判されたり信用されなくなったりする。

遅刻しないために必要なスペックが30TBの外付けSSDだとすると、実際の私たちは60GBくらいのマイクロSDだ。毎回遅刻しない人はこの60GBのマイクロSDに何回もデータを上書き保存しながら30TBの容量を偽装しているため、延べ30TBぶんのデータは入るものの過去のデータは消失している。つまり、何か大事かもしれないものを失いながら毎回遅刻を回避していることになる。それに比べて、遅刻をそこそこする人は60GBを節約しながら使っており、30TBのデータのうち不要と判断したものを敢えて記録しないことによってデータの消失を避ける一方で、遅刻はしている。

毎回遅刻しないことと、データの消失を避けることをなんとか両立させることはできないか。その唯一の解は、ふつうの60GB前後のマイクロSDをいくつでも買うことだ。30TBをうたって販売されている60GBのマイクロSDは5000円もしてしまうが、ただの64GBのマイクロSDなら1000円もしないで入手できる。つまり、同じ5000円で容量は5倍以上、約400GB、すなわち0.4TBもの容積(これを人間の容量の理論値とする)を得られる計算になるのだ。しかし必要な30TBの75分の1にしか達していないので75分の74のデータは上書き消去されてしまうことになる。

マイクロSDの数はすなわち、ブレイン(脳)の数を意味する。ひとりの人間が5個以上の脳を持つ状況とは、多重人格という手法で実現する必要があるものではないか。ただし、一般的な解離性同一症という意味以外にも、頭の中にいくつもの人格を所有するということはかなり普遍的に行われていることだと思う。憧れの人を真似して、あの人だったらこの場面でどんな言動をとるか考えてみるとか。その類の手法を用いて、最低5人は思考パターンを明確に再現できる他者を持っておこう。ただし、その5人は全員遅刻をしなさそうな人(実際のスペックは60GBでも、30TBを持っていると偽装しきれる人)である必要がある。こういう人格は「先生」と呼ばれる人であることが多い。先生は、どんなにだらしなくて弱い人間でも「先生」であることを求められている人だから、30TBを偽装することなんて日常茶飯事なのだ。

こんなに苦労してもなお、75分の74のデータの消去を回避することはできない。しかし、ある説によると人間は5年周期で全く思考が入れ替わってしまうらしい。好きなものや信じているものがまるきり変わっているということ。だから、5年に一回はデータをすべて消去してもいいとき、人生の長さを80年と仮定すると、一生分のデータ(30TB)のうち5年間保存しておかなくてはならないデータ量は全体の16分の1(0.0625)。対して人間の容量の理論値は75分の1(0.01333…)。まだ約1.5TBぶんのデータが失われるリスクが拭いきれない。

これをどうするか?うーん。「先生」になるしかない。遅刻しないためにはみんな「先生」と呼ばれる存在にならなくちゃいけないんだ。学校の先生はやりがい搾取のブラック労働環境と言われているが、人生をそんなふうに捉えてしまうのはせっかく生まれた以上悲しい気もする。正直、どんなにいい先生でも心が若くて熱意も体力もある人が気合で乗り切りでもしない限り務まるはずがない仕事だと思う。だから、私たちもできるだけ若くて希望も健康もあるうちにこのことを知って、絶対、先生になろうな。ねっ、先生。